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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

まアいいじゃアねえか、なアおい竹童、おれとおめえとは、いまじゃ身分がちがってしまったが、もとは裾野の人無村で、おなじ柿の木の柿をかじりあった仲だ。――おれはおめえに同情しているんだぜ。だからよ、ゆうべだッて、おれから声をかけたんじゃねえか。うまい飴ン棒でもしゃぶらしてやろうと思って、ひとが親切にいったものを、コケおどしの刃物なんぞふりまわして、よせやい、おれだって、はばかりながら、刀ぐらいは差しているんだからな」

竹童は、唖のようにだまっていた。

しかし、全身の血は、沸りたち、毛もよだつほど怒っていた。だが、――いまは、どこまで盲の態をみせて蛾次郎にゆだんをさせ、その素ッ首をひンねじってやろうと、心の奥にためきって、かれの悪口雑言を、いうがままにこらえている。

「エエ、オイ、なんとかいえよ、なんとか」

蛾次郎は、竹童のからだから棘の立っているのに気づかず、いきなり蕎麦まんじゅうをムシャムシャ食べて、

「やい乞食、これでも食らえ」

と、その食いかけを、竹童の口もとへ持っていった。

待っていたぞ――と、いわぬばかりに。

「逃げるな、蛾次!」

と、いうがはやいか、鞍馬の竹童、顔まできた蛾次郎の右の手を、いきなりつかんでひきよせた。