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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
いかにも、この果心居士が知るところでも、呂宋兵衛の手にとらえられた僧形の貴人は、勝頼公によう似ておった」
「おお、してその僧侶はどうしました。また、居士はなんで、かような姿をして、この鎖駕籠のなかにはいっておいでになりましたか」
「されば、じつをいうと、その貴人の僧は、南蛮寺の武器倉に押しこめられている間に、わしがソッと逃がしてやりました。そして――その人の笠や衣をそのまま着て、わしがこの鎖駕籠に乗っていたのじゃ」
「お! では老先生、やはりその僧こそ、父の勝頼ではございませぬか」
「さあ? ……その人が勝頼であるかないか、それはだれにもはっきりは申されぬ」
「な、なぜでござります」
「武門をすて、世をすて、あらゆる恩愛や争闘の修羅界を、すてられた人の身の上でござるもの。話すべきにあらず、また話して返らぬことでもある」
「や、や、や! ではこの伊那丸が、かくまで心をくだいて、武田家の再興を計っているのに、お父上には、もう現世の争闘をお忌みあそばして、まったく、心からの世捨人とおなりなされたのですか」
「もし、おん曹子――まえにもいったとおり、まだその僧が、勝頼公かいなか、はっきり分っておらぬのに、そうご悲嘆なされてはこまる。