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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

星に泣く使者

一

「十兵衛!」

そばにひかえている禿頭を呼んで、

「だれもみな、表のそうどうに走りだして、侍部屋には人のおらぬようすだが、それではならぬ、源氏閣の上にも思わぬ変事じゃ、すぐ十名なり二十名なりを呼びかえして、閣上のようすを見につかわせ」

老臣の伊東十兵衛も、わたされた早文の走り書を一見して、仰天しながら、

「おッ、咲耶子のやつめが?」

「余一の乗ってきた鷲をうばって、監禁の閣をやぶり、こよいのそうどうにまぎれて逃げのびようとしているらしい」

「ウーム、油断のならぬ女め、捨ててはおけませぬ」

「早くせいッ、早くッ」

「はッ」

と、老臣の伊東十兵衛、言下に立ちかけたけれどイヤに膝が重い。はてな、と思って気がついて見ると、使いをしてきた三太郎猿が最前からしたり顔をして、じぶんの膝にもたれている。

殿さまご寵愛のお猿さま、常からわがままいっぱいのくせがついているので、老臣の膝を脇息のかわりにするぐらいなことは平気だが、折もおり、十兵衛も気が立っているので長安の見ている前もかまわず、

「えい、邪魔なやつめ」

と、襟毛つかんで、こッぴどくほうり投げてくれると、キャッ! とぎょうさんな啼き声をあげたが三太郎猿、ちっとも驚いたさまもなく、廊下のあなたにちょこんと両足で立っていた。