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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「さりとは心がけのよい曲者、いったい、それはどこの者で」

「黒装束はみな緋おどし谷にいた若い女子、源氏閣へ斬りこんだ者は、武田伊那丸の身内、木隠、巽の両人とあとでわかった。おお、それから鞍馬の竹童」

「えッ、竹童も」

宮内は久しぶりであの好きな少年を心にえがいた。

そしてその竹童も、無事にこの館をやぶって逃げのびたと卜斎に聞いて、敵でも味方でもないが、なんとなくうれしくおぼえた。

虹色の陽が高くのぼってきた。

近国へうわさがもれては外聞にかかわるというので、昨夜のさわぎはいっさい秘密にするよう、家中一統へ申し渡しがあって、ほどなく、躑躅ヶ崎一帯、つねの平静に返っていた。

午後には、重なる家臣が桜雲台へ集まった。

けれど、それはゆうべの問題ではなく、もう日限の切迫してきた、御岳の山における兵学大講会の奉行を命ぜられた長安の下準備や手配りの評議。

その公書を浜松からもたらしてきたお小姓とんぼ組の星川余一は、万千代さまへの申しわけに、鷲の行方をつき止めるまで、しばらく長安の詮議をたよりに、ここへ滞留していることになる。

鷲といえば――。

余一のほかにだれも見とどけた者はないが、源氏閣のてッぺんからすがたを消した咲耶子は、いったいどこへいったのだろうか?