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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

神は欺くべからず

一

この早駆け勝負のまえには、奉行の方から騎乗随意といってきたくらいであるから、とうぜん、騎馬の往来は自由なところと考えていたが、このあんばいだと、前途はしょせん馬で押しとおすことはできないかも知れない。

「はかられたな」

と小文治は早くも心のうちでさとったが、要するに地理不案内からきたおちど、いまさら引っかえすわけにはゆかないことは知れきっているので、

「ままよ」

と強情に、樹々にせばめられている細い道へと、むりやりに馬をすすめていった。

が、そこには我武者にかけとばしても、たちまちまた一つの難関があった。なんの沢というか知らないが、おそろしく急な傾斜で、その下には幅のひろい渓流がまッ白な泡をたてて流れている。

まよった。――小文治はまよわざるを得なかった。

手綱にそうとう要意と覚悟をもてば、自分とて、こんなところを乗り落とすことができないではないが、帰る場合にどうしよう?

ほかに登る道があればいいが、ないとすると、この傾斜では、馬を乗りあげることがむずかしい。それに、下に見える渓流もはたして騎馬で越せるかどうか?

「ウーム、さては大久保をはじめ徳川家のやつばらめ、あらかじめ地の理をしらべておいて、うまうまと最後の勝負でこっちに一ぱい食わせたのだ。