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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

二

この秋に、京は紫野の大徳寺で、故右大臣信長の、さかんな葬儀がいとなまれたので、諸国の大小名は、ぞくぞくと京都にのぼっていた。

なかで、穴山梅雪入道は、役目をおえたのち、主人の徳川家康にいとまをもらって、甲州北郡へかえるところを、廻り道して、見物がてら、泉州の堺に、半月あまりも滞在していた。

堺は当時の開港場だったので、ものめずらしい異国の色彩があふれていた。唐や、呂宋や、南蛮の器物、織物などを、見たりもとめたりするのも、ぜひここでなければならなかった。

「殿、見なれぬ者がたずねてまいりましたが、通しましょうか、いかがしたものでござります」

穴山梅雪の仮の館では、もう燭をともして、侍女たちが、琴をかなでて、にぎわっているところだった。そこへひとりの家臣が、こう取りついできた。

「何者じゃ」

梅雪入道は、もう眉にも霜のみえる老年、しかし、千軍万馬を疾駆して、鍛えあげた骨ぶしだけは、たしかにどこかちがっている。

「肥前の郷士、浪島五兵衛ともうすもので、二、三人の従者もつれた、いやしからぬ男でござります」

「ふーむ……、してその者が、何用で余にあいたいともうすのじゃ」