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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「なんだ、ぞうさはねえや」

蛾次郎は、短銃をふところへしまいこんだ。なかで、なにかカチャリといったので、さぐってみると肌身はなさない秘蔵の水独楽だ。

「じゃまだな」

と、また短銃をだして、手拭にクルクルとくるんだ。そいつを、ボロ鞘の刀と一しょに腰へさして、大小を差したように気取りながら、

「オイ、亭主さん、おつりをくんな」

と、もらったばかりの銀銭を餅屋の台へほうりだした。

そのつり銭を巾着にいれて、そとへ飛びだそうとすると出合いがしらに、カアーンという鉦の音が不意に鳴ったので、

「あ。びッくりした」

と、よこを見た。

七、八軒さきの横町から、地蔵行者の菊村宮内が、れいの地蔵尊の笈摺を背負って、こっちへ向かってくるのが見える。

「こいつはいけねえや、竹生島のおやじに会うと、またなにか、小やかましいお説教を聞かされるにちがいない」

こうつぶやいて、かれが、横を向きながら、ぷいと向こうへそれようとすると、おなじ宿場の軒をながしていた坂東巡礼の三十七、八ぐらいな女――わが子をたずねて坂東めぐりをして歩くお時という女房が、

「あッ。あの子! あの子!」

と、目をすえて、よってきた。