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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

と燕作は手をうって、

「あれならなにもしんぱいすることはねえぜ。泣き虫の蛾次公が、おまえのすきをねらって、乗りにげしたッていう話だから」

「ところが行方が知れないんだもの――しんぱいしずにいられないよ」

「なアに、蛾次公のことだもの、いまにあっちこっちを飛びまわったあげくに、この京都へもやってくるにきまってら。な、そこをギュッと取っつかまえてしまいねえ」

「ああ、おいらもそう思って、北国街道から、雪のふる橡ノ木峠をこえて、この京都へきたけれど……まだ鷲の影さえも見あたらない」

「そう短気なことをいったってむりだ。ものはなんでもしんぼうがかんじんだからな……おや、そりゃそうと、竹童さん、おまえはたいそうすばらしい刀をさしているじゃねえか」

と、燕作はソロソロ狡獪な本性をあらわして、なれなれしく竹童の帯びている般若丸の鍔や目貫をなでまわしながら、

「こりゃ大したものだ。目貫の獅子は本金で、鍔は後藤祐乗の作らしい。ウーム……どうだい竹童さん、ものはひとつそうだんだが、その刀をおれに四、五日貸してくれないか」

「えッ」

竹童は図々しい相手のことばにびっくりして、

「とんでもないこと! この刀は貸すどころか、ちょっとでも肌身をはなすことのできないだいじな品物だよ」