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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

……悔いておよばぬ場合である。

ただこのうえは、まんがいちにも、かれに敗れをとらぬことだ。まかりちがって、正当なやくそくのもとに試合して、どうどうと、かれに咲耶子を持ってゆかれるようなことがあった日には、それこそ石見守の立場がない。かれの失態はなんとしてもまぬがれない。

で、長安はやっきとなった。

菊池半助も、すわこそと、呂宋兵衛にここの大事をささやいていた。

かかるまに、支度の陣貝がしずかに鳴りわたる。……とうとうたる太鼓……型のごとき黄母衣、赤母衣、白母衣の伝令三騎が、番外の五番試合を各所の控え所へふれて、虹のように試合場のまわりを一巡する……

水をうったように、群集のこえと黄塵がしずまって、ふたたび、御岳の広前に森厳な空気がひっそりと下りてきた。

大雨一過のおもむきである。

次にきたるべきものは、嵐か、雷か。

試合ははじまった。

浜松城の隠密組菊池半助がいつのまにか広前の中央にすッくと立っているのが見える。得物をもたず、たすきや鉢巻きもしていないので、この番外試合のいきさつを知らない一般の群集には、ちょっと気抜けがさせられたようすで、ふしんそうに見とれている。